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F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

脱税と節税のはざまで、F1ドライバーたちのマネー運用術の未来は不透明だ

Cameron Must Resign protest 9 April 2016

思わぬところでニコ・ロズベルグの名が挙がって驚いた。話題の「パナマ文書」の中に、彼の資産を管理する関連会社があったからだ(「パナマ文書」にロズベルグの契約に関する記載、独報道 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News)。

「パナマ文書(Panapa Papers)」とは、パナマの法律事務所『モサック・フォンセカ』からリークされた内部文書のことだ。この事務所は、世界各地の租税回避地(タックス・ヘイブン)を利用して、事実上の節税や資金洗浄をおこなう企業や個人を対象にビジネスをしていた。今回さまざまなメディアで話題となっているのは、その内実を記した機密文書が匿名の人物によってその内容が公開されたからだ。

しかし、おおかたのF1ファンは「へえ、ニコもか」としか思わなかったようだ。というのも、多くのF1ドライバーはモナコやスイスといった税制で優遇が受けられる地に引っ越しているし、より高度なマネー運用術としてオフショアの利用もよく知られており、日本では元F1ドライバーのタキ井上こと井上隆智穂によって「マネーロンダリング」の手法として紹介されて久しいからかもしれない。

その井上隆智穂のインタビュー記事は『Inside-Tokyo』というサイトに長年に渡って掲載されていたが、現在は削除されてしまったようだ。しかし、Internet Archive (Wayback Machine)に2003年当時の記事が残っているので、井上によって「合法なのは確か」だと公表された内容を読むことはできる。

端的に彼が説明しているのは「すべてのチームとドライバー」が、海外(オフショア)のペーパーカンパニー(架空の会社)を利用した、自身の節税やスポンサー企業の資金洗浄(マネーロンダリング)をおこなっているというものだ。彼自身も「日本の税制度では手出しができない」、かつ「合法」な方法で、口座間の送金と入金をおこなっていたという。

当F1ワッチでも、スイスの秘密口座の件を記事にしたことがあり(スイスの秘密口座が暴れ、ブリアトーレ、アロンソ、コバライネンの名が晒される - F1ワッチ (F1watch))、確かに、ニコがどのようなマネー術を実践していようとも、驚くには値しないという感想を持ったような気もする。

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しかし、そのような流れが変わりつつあるのかな、と感じた記事もあった。それが、トップアスリートたちの節税と、それに待ったをかけようとするヨーロッパ諸国の取り組みをまとめた2014年の『ゴルフダイジェスト・オンライン』の記事だ(トップアスリートたちのスイス移住が止まらない! その理由は意外な理由からだった|ゴルフダイジェスト・オンライン)。

その記事ではスキーで重傷を負ったミハエル・シューマッハのフランスからスイスへの転院の理由など興味深い内容が書かれてはいるが、最も興味深いのはイタリアの取り組みだ。

なかでも厳しい態度を取った筆頭がイタリア当局。海外に住居を持つが、実際にはイタリアへ戻る機会も多いイタリア人セレブリティたちに対して、イタリアへ納税すべきだと、脱税容疑で追徴課税を迫った。さらには、「もし、このまま税金を支払わないというならば、2度とイタリアに入国させない」という通達を出したのである。これに驚いたのが、海外に住居を構えていたF1ドライバーやライダー達だ。……2輪の世界ではシューマッハー以上のヒーローと言えるバレンティーノ・ロッシは、イタリア当局との話し合いの結果、納税すべき期間および滞納分として、2001年から2006年までの合計額で3500万ユーロ(2007年当時1ユーロ160円換算で約56億円)を支払うことで合意。さらに2007年以降はイタリアに住み、イタリアに納税することを発表した。他にもモナコなどに住んでいたイタリア人セレブリティ達は軒並み、イタリア当局と話し合いを進め、納税額と滞納分を決定し支払った後、イタリアへ帰国している。(トップアスリートたちのスイス移住が止まらない! その理由は意外な理由からだった|ゴルフダイジェスト・オンライン

周知のようにイタリアは財政難に陥っているが、その理由が税の未納や未徴収によるものだとも伝えられていた(【イタリア】脱税と税の未徴収が財政危機の最大要因――市場の暴走を新政権は制御できるか | 週刊金曜日ニュース)。いかに海外に住居を移し節税をおこなうアスリートが「合法」であろうとも、愛国心やモラルに訴えかけることで適切な納税を促したり、それらを摘発したり非合法化するように動くことは、各国が共同でタックス・ヘイブンを利用する富裕層・大企業に対する課税に取り組んでいることに考えれば妥当なことである(タックスヘイブンは富裕な脱税者の楽園にあらず:日経ビジネスオンライン)。

その意味で、ニコ・ロズベルグの一件は、これまでのF1の常識から考えれば「あたりまえ」であるし、おそらく完璧に合法な方法でおこなわれていることは間違いない。しかし、スイスの秘密口座や、パナマ文書や、さまざまな機密がリークされている現在においては、明日のことはわからない、といったあたりだろうか。

もちろんテクニカル・レギュレーションの「隙間」を突くのは合法であることは、F1の世界が示している通りだ。しかしだからといって、目立ちすぎたものは叩かれるのも、またF1の世界が示している通りだ。マネー運用術にしてもその通りかもしれない。F1は大事なことをいろいろ教えてくれる。

世界各地でのこのような「節税術=脱税術」への批判が高まっていることと、なかなかスポンサーがつかないといったF1の不人気とのあいだの相関関係は不明だが、もしかすると関係があるのかもしれない、と考えてしまう。

今回の話題は、ポッドキャストでも紹介しています。もし関心があればお聞きください。

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(CC) Photo: Cameron Must Resign protest 9 April 2016 | Flickr - Photo Sharing!

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