Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

F1の危険性と安全性は両立可能なのか——ライコネンの「本音」とFIAの「建前」

キミ・ライコネン FIA 安全性 ジャン・トッド

フェラーリのキミ・ライコネンが「F1はもうちょっとだけ危険であるべきだ」と発言したことが話題になっている(「もっと速くもっと危険なF1に」とライコネン - オートスポーツweb)。発言の相手は元F1ドライバーのジャン・アレジで、フランスのTV局「Canal+」でのインタビューだった。こうした「文脈」もライコネンの発言には関係しているかもしれない。

Kimi Raikkonen 2
Kimi Raikkonen 2 by Amily, on Flickr

ともあれ、このライコネンの発言はF1ファンの関心をひいただろうが、FIAは別の関心を持っていたかもしれない。ジャーナリストのジョー・サワードが面白いことを言っている。ライコネンは「危険であるべきだ」と発言する一方で、FIAが主宰する「ロード・セーフティ(道路をもっと安全に)」のPRキャンペーンとも無関係ではいられないというのである。

まずはライコネンの発言を英語ソースに辿って確認しておこう。

日本のオートスポーツは「もっと速くもっと危険なF1に」とライコネンの発言を見出しで要約して見せたが(「もっと速くもっと危険なF1に」とライコネン - オートスポーツweb)、英文で確認する限り、実際にはそこまでアグレッシブな発言ではなさそうだ(Kimi Raikkonen: Formula 1 could be a 'little more dangerous' - F1 news - AUTOSPORT.com)。

"You would have thought cars would have become faster, but with rule changes they have tried to make them more slow.

"We must do something to make watching F1 more exciting, to appreciate the speed and to make it a little more dangerous. It is part of the game. (Kimi Raikkonen: Formula 1 could be a 'little more dangerous' - F1 news - AUTOSPORT.com

この二つの発言を訳すと、「みなさんはマシンが速くなってきたと考えているかもしれないが、ルールの変更によって、実際にはどんどん遅くなっている」「私たちは、F1を観戦することがもっとエキサイティングになるように、何かをするべきだ。マシンが速いことの価値を認めたり、F1をもうちょっとだけ危険にしたりするんだ。それはこのスポーツの一部だ」……となるだろうか。この二つをくっつけて混ぜると、オーストスポーツジャパンの見出し「速くて危険に」になるらしい。

この発言は、ライコネンの本音をメディア向けに丁寧に表現したものであろうし、多くのファンの共感を買っただろうし、なによりインタビュー相手のジャン・アレジあっての発言だっただろう。

しかし、ジョー・サワードによれば、安全性の向上を至上命題にしているFIAにとっては、頭の痛い発言だったかもしれない。

Later in the weekend he stood in front of the FIA’s banners proclaiming Action for Road Safety after qualifying for the Canadian GP. (Promoting danger | joeblogsf1)

「カナダGPのとき、ライコネンは「危険」の価値に言及した後、予選終了後に開催されたFIAの「Action for Road Safety」(参考:FIA Action for Road Safety | Federation Internationale de l'Automobile)キャンペーンのバナーの前に立っていた。」

Clearly the mixed messages highlight the conflict of interest that exists between the road safety ambitions of the FIA and safety in the sport, which more or less forces the federation to make racing as safe as possible. (Promoting danger | joeblogsf1)

サワードによれば、ライコネンの発言は、FIAが世界中の道路ももっと安全にしようと目標を掲げていることと、F1をはじめとするモータースポーツをより安全にしようとしていることのあいだの対立構造を明らかにしているという。というのも、この対立が、FIAがレースを可能な限り安全にしようとすることを、多かれ少なかれ強制しているからだ。

確かに、より危険なレースを目論むことと、世界中に交通安全のメッセージを発することは、大いに矛盾するようにも思われる。

しかし、サワードは面白いことを言っている。FIAが率先して交通安全キャンペーンに参加する合理的な理由は存在しない——自動車業界の大人の都合以外には——というのである。

世界中の道路を安全にという働きかけ運動は、数百にのぼる政府関連組織やNGO(非政府組織)、そして国連(UN)や世界保健機構(WHO)といった国際的な組織によって構成されており、FIAが参加する必然性はない。しかし、サワードによれば、交通安全キャンペーンにFIAが率先して参加すること自体が、自動車業界に対する弁護として機能している。であれば、FIAが「Road Safety」への参加を取りやめることはできないだろう。

確かに「ロード・セーフティ」キャンペーンは、FIA自身が「自分で自分の首を絞める」ような状況を招いていることも事実だ。2014年には、F1にアルコール飲料のスポンサーがついていることが、飲酒運転を助長する可能性があるのではないか、と問題視する報道があった(Formula One braced for attacks over alcohol sponsorship from road-safety lobby - Telegraph)。

これはジャン・トッドが国連内になんらかの役職(交通安全を推進する立場を代表するようなもの)を得るのではないか、との報道に対して、ヨーロッパのチャリティー団体が、F1とアルコールの関係を問題視してトッドを攻撃したものだ。

It is understood that an alliance of road safety and anti-alcohol bodies have been given assurances by the UN that Todt will not be given such a high-profile role. (Formula One braced for attacks over alcohol sponsorship from road-safety lobby - Telegraph

というのも、国連が主導している交通安全キャンペーンと反アルコール団体のあいだの連携は確かなものなので、そこで、F1のアルコール広告を許容しているジャン・トッドが職を得るのはおかしい、ということだ。

このように、自動車業界の利害を背負ってか、交通安全を率先して進めざるを得ないFIAの立場は、自縛的だ。F1を「ちょっとだけ危険」にすることもできないし、アルコール広告を排除するような圧力もかけられる。さて、どうすればいいのか……?

ここで、先ほどのサワードが投げたアイディアが秀逸だ。

Perhaps it is better to let the do-gooders do good and let the racers be the bad boys. (Promoting danger | joeblogsf1)

「たぶん、偽善者達には善いことをさせておいて、ドライバーたちには悪いことをさせておくのがいいんじゃないかな」

OK, Joe、たぶんその通りだ。

(CC) 画像出典:Kimi Raikkonen 2 | Flickr - Photo Sharing!