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F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

本当にF1は「腐敗」していないのか——FIFA(フットボール)を笑えない

バーニー・エクレストン FIFA フットボール ジャン・トッド FIA FOM

裏金がたった184億円!? と、ニュースの見出しを見て思ったなら、それはF1ワッチャーの金銭感覚が正しく麻痺している証拠だろう。現在、FIFA(国際サッカー連盟)めぐる約184億円の「裏金」発覚をきっかけとして、グローバルなスポーツであるフットボール内部の腐敗を追求せよとの声が高まっている(FIFA:入金184億円の出所は? ブラジルが独自捜査 - 毎日新聞)。

Bernie Eccleston
Bernie Eccleston by Stuart Beattie, on Flickr

果たしてF1は腐敗していないのか? 英テレグラフ紙のジョンソン記者のレポートによれば、FIA(国際自動車連盟)のジャン・トッド会長は「F1は腐敗していない」とさっそく主張したようだ(Formula One is not corrupt, insists Jean Todt - Telegraph)。

フットボールとモーターレーシングのあいだにそれほどの違いがあるのか。果たして「腐敗(corruption)」とは何なのか。

先日モスクワで開催されたフォーミュラEの会場で、ジャン・トッド会長は、今FIFAを襲っているのと同じ問題が、FIAに蔓延することはあり得ないと述べたという。

“There is no way that the FIA could have the same problems with corruption that Fifa are experiencing,” Todt said.(Formula One is not corrupt, insists Jean Todt - Telegraph

彼がいう「同じ問題」とはいったいどんな種類の問題なのかにもよるのだが、仮に彼が会長を務めるFIAが潔白であるとしても、そのFIAが管轄するスポーツのひとつである「フォーミュラ1(F1)」には、ある種の「腐敗」の(長期に渡る)兆候が観察されており、欧州委員会による捜査のメスが入ろうとしていることは事実である。

It comes as speculation builds that the European Commission is preparing an investigation into Formula One, including both the way the rules are made and the skewed distribution of prize money.(Formula One is not corrupt, insists Jean Todt - Telegraph

英テレグラフ紙が述べているように、トッド会長の強弁は、現在EUの欧州委員会(the European Commission)がF1を調査しようと準備しているとの憶測への牽制とも読める。というのも、欧州委員会は、現在のF1には、規則の作られ方においても、賞金の不公平な分配についても、おおいに問題があると考えており、もし欧州委員会がF1に対してなんらかの強制力のある決断を下せば、トッド自身も無傷では済まないだろうからだ。

その意味で、トッドがFIAの誠実さをアピールする裏側には、「FIAは誠実だが、FOA/FOM(=バーニー・エクレストン)の方は、我々は関知していない」という防御戦を既に張ろうとする意図があるのではないか? トカゲの尻尾切りなのではないか? という邪推も、政治家としてのトッドの手腕を知ればこそ思わずしてしまいたくなるというものである。

ここで欧州委員会が踏み込もうとしているF1の「腐敗」とは、決してこれまでのバーニー・エクレストンが演じてきた様々な「汚職」のことを指しているのではない。

欧州委員会が指摘しているのは、バーニー個人のことよりも、もっと本質的な、現在のF1というスポーツが構造的に抱える「合法性(legitimacy)」と「不平等(inequality)」の問題である、とESPN F1のウォーカーが6月10日に伝えている(Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One)。

This week the Financial Times confirmed that moves to begin an investigation into Formula One were underway at the European Union, with a group of the sport's smaller teams preparing a formal complaint for the competition commissioner. (Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One

ウォーカーによれば、欧州委員会がF1の内部調査を始めようと動いているということは、英ファイナンシャル・タイムズ紙が認めたものであるという。それは、F1に参戦する中小規模のチームが、公正な競争を促すための欧州委員会内の担当役員(the competition commissioner)への正式な異議申し立てを準備している件と同時並行的に生じている。

Instead, the Commission's task is to establish whether or not the practices in question are detrimental to the sport's fans (or the consumers of the F1 product). (Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One

しかし興味深いのは、そういった中小規模のチーム[訳注:フォースインディアなど、将来のF1のあり方を決めようとするF1戦略グループから除外されているチーム]の真意と欧州委員会の狙いは微妙に異なっていることだ。欧州委員会はこれをきっかけに、F1というスポーツのファン、それはF1という商品の消費者と考えてもいいが、そういった人々にとって不利益となるような行為があるのかないのかを、明らかにしたいようだ。

If the Competition Commission finds that the inequitable division of F1's spoils and the decision-making power of the F1 Strategy Group are harmful to the sport's consumers, then further action will be taken. (Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One

もしも公正な競争に関する委員会が、F1を台無しにするような不平等な決定が存在することを突き止めたり、F1戦略グループの決定権そのものがF1というスポーツの消費者(=ファン)にとって有害であると認めれば、欧州委員会によってF1に対して[そのような不平等や不誠実さを是正するような]さらなる手続きが取られるだろう。

If it can successfully be argued that the F1 Strategy Group's crushing of cost controls previously agreed by the World Motor Sport Council (as happened in 2014) is an abuse of the F1SG members' dominant position, then the paddock should brace itself for an EU-enforced shake-up.(Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One

F1戦略グループは2014年には世界モータースポーツ評議会で同意されていた予算制限案を廃案にしている。これは、F1戦略グループのメンバーによる権力の乱用の一例であると考えられる。その結果何が生じたかといえば、二つのチーム[訳注:ケータハムとマルシャ]の破産である。いったい公正なレースとはなんだろうか。F1を運営する人々は、自らの手で自らのスポーツを打ち壊し、ファンに対する不誠実な行動を続けているとはいえないだろうか? (いったいこの数年であなたの身の回りの何人がF1中継を見なくなったか、考えてみれば明らかだろう。)

Given that two teams entered administration as a result of that decision, it is hard to claim that the members of the 2014 F1 Strategy Group responsible for torpedoing cost controls did not use their position of influence to eliminate competition, mobile chicanes or otherwise.(Kate Walker - Legitimacy and inequality - The European Union and Formula One

ラップタイムが遅いチームを「走るシケイン」呼ばわりし、本来おこなわれるべき公正な競争の芽を潰すために予算制限案を廃案にすべく2014年のF1戦略グループのメンバーが権力を濫用しなかった、と考えることは難しいだろう。この点が欧州委員会による捜査の対象となる見込みだ。確かに、それは「汚職(賄賂)」ではないかもしれないが、ある意味ではもっと深刻な状況だ。

さて、いったい腐敗とはどのような状況のことを指して言うのだろうか。

Corruption is dishonesty and illegal behaviour by people in positions of authority or power. (Cobuild English Dictionary)

コウビルド英英辞典によると、腐敗(Corruption)とは「権威もしくは権力をもつ立場にある人々によっておこなわれる、不誠実もしくは違法な行為のこと」と定義されている。

それは決して賄賂(裏金)が飛び交う状況だけを指すわけではない。腐敗とは堕落であり、ごく一部の権力をもつ人々のあいだで不誠実さが蔓延することを指す。欧州委員会が狙うように、そういった腐敗は長時間をかけて徐々にスポーツそのものを蝕んでいくし、その被害者となるのは、世界中でそのスポーツを楽しもうとしている私たちF1ファンである。

もし腐敗がそのような行為を指すのであれば、現在のF1はかなり「腐敗」していると言うことができるのではないだろうか。バーニー・エクレストンによる長期独裁を、類まれなる能力と高潔さを持った皇帝による「最良の専制政治」になぞらえ、現在のF1を楽観的に語ることは、僕にはできそうもない。

もっとも、F1の皇帝たるバーニー・エクレストンが、夭逝の天才よろしく25歳でこの世を去っていれば、話は違っただろう。しかし現実にはバーニーは80年以上も生きているし、まだ生き続けている。そろそろカイザー(皇帝)・エクレストンにはご退位いただくのが筋というものだろう。

(CC) 画像出典:Bernie Eccleston | Explore S2 B's photos on Flickr. S2 B has… | Flickr - Photo Sharing!