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F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

「マクラーレンはマンチェスター・ユナイテッド」というロン・デニスの信念を検証する

マクラーレン ロン・デニス フットボール マンチェスター・ユナイテッド ホンダ

いつのまにかマクラーレンは「F1界のマンチェスター・ユナイテッド」になったらしい。少なくともロン・デニスはそう信じているようだ。

McLaren MP4/5B
(CC) McLaren MP4/5B by nhayashida, on Flickr

この考えはデニスのマクラーレン・ホンダに関するインタビューのなかで発言されているのだが、日本ではニュースの見出しになることもなくスルーされている。しかしこの「マンチェスター・ユナイテッド」発言は、デニスが自分のチームをどのように考えているのか、これからのマクラーレン・ホンダを考えるうえで大きなヒントになっていると思われるので、F1ワッチで取り上げたい。

この発言は、「タイトルスポンサーは過去の概念」という記事で、日本語でも配信されている(マクラーレン「タイトルスポンサーは過去の概念」 (オートスポーツweb) - Yahoo!ニュース)。*1

「マンチェスター・ユナイテッドに似ている。彼らは低迷しランクを落とした。我々はマン・ユナイテッドだと思う。『スポンサーになりたいか? 我々はマン・ユナイテッドだ』と言えるのだ」(マクラーレン「タイトルスポンサーは過去の概念」 (オートスポーツweb) - Yahoo!ニュース

……しかし残念ながら、上記の日本語配信バージョンだと意味がわからないばかりか、まるでロン・デニスがちょっとおかしくなったのかと思われてしまいそうだ。そこで、英語の元記事にさかのぼって、もういちど彼の真意を考えることにしよう。

"I feel a bit like Manchester United, which has had a run of crappy football games and gone down in the league. I still think we are Man Utd, I still think that we can come along and say 'will you sponsor us? We are still Man Utd'. (Formula 1 team title sponsors are history - McLaren's Ron Dennis - F1 news - AUTOSPORT.com)

F1ワッチ風に訳してみよう:

ロン・デニス曰く。「あくまでも個人的な考えだが、マクラーレンは、マンチェスター・ユナイテッドに少しばかり似ていると思う。マンチェスター・ユナイテッドはひどい試合を繰り返したせいで、プレミアリーグの上位に入れなかった[訳注:has hadと過去完了が使われていることから、現在のシーズンではなく、プレミアリーグの昨シーズン(2013/2014)でマンUが7位になり、同じ都市にあるマンチェスター・シティにリーグ優勝されたうえにUEFAチャンピオンズリーグへの進出を逃したことに触れているのだろう]。それでも私は、今でもマクラーレンはマンチェスター・ユナイテッドだと信じているから、これからだって「私たちのスポンサーになりたいのかい? でも私たちはマンチェスター・ユナイテッドだよ」ということができるだろうね」

後半部分は補足が必要だろう。

デニスは「私は、今でもマクラーレンはマンチェスター・ユナイテッドだと信じている」と「今でも(still)」をつけているのは、彼がマクラーレンとマンチェスター・ユナイテッドを重ね合わせるのは、これが初めてではないからだ。

興味深いことに、今からちょうど1年ほど前の2014年の3月6日、まさに昨シーズンのF1開幕前に、「マクラーレンはマンチェスター・ユナイテッドだ」と、ロン・デニスは発言している(McLaren chief Ron Dennis reveals £200m plan to revive the 'Manchester United of F1' | Daily Mail Online)。

I strongly believe we are Manchester United,' said Dennis

'Inevitably, when you have a run of poor results, people push the rate card down.

'But I know what this company is and what this grand prix team can achieve, and that requires the correct recognition from a close relationship with a principal sponsor.' (McLaren chief Ron Dennis reveals £200m plan to revive the 'Manchester United of F1' | Daily Mail Online

デニスは「我々はマンチェスター・ユナイテッドだと強く信じている」と言う。「やむを得ないことだが、たいしたリザルトを残すことができなければ、みな私たちに価値があると思わなくなる」「しかし、私は、マクラーレンという会社がどんなものかよくわかっている。このF1チームは、ひじょうに親密な支援を提供してくれる適切なタイトルスポンサーを必要としているし、それを探すことができると思う」

昨年のその時点で、マンチェスター・ユナイテッドは、かつてのアレックス・ファーガソン監督が率いた常勝軍団から「転落」しつつあり、メディアには「混乱」「低迷」といった表現が踊っていた。日本のメディアはそのチームの混乱と香川真司が出場機会が与えられないことを結びつけ「新監督がビジョンを見出せていないからだ」と批判していた(なぜ香川は、これほど苦戦しているのか? | 日本代表はW杯で勝てるのか? | 東洋経済オンライン)。

それでもなぜ、ロン・デニスは「マクラーレンはマンチェスター・ユナイテッド」だと発言したのだろう?

理由は大きくわけて二つ考えられる。

一つめは、自虐的であり客観的でもあると言えるが、マクラーレンもまた常勝軍団から平凡なチームへと転落しており、チャンピオンシップから程遠い状態にあるのだ、ということ(参考:CL出場権逃して大損害 マンUはすでに30億円の大幅減収 - Goal.com)。

二つ目は、こちらのほうが重要で、デニスの考えの核心にあると思うのだが、マンチェスター・ユナイテッドがたとえ負け続けたとしても高いブランド価値を持ち続けているように、マクラーレンもまた、その結果如何に関わらず、世界中の商業スポンサーを惹きつけることができる高いブランド価値を持ち続けているのだ、ということだ。

マンチェスター・ユナイテッドについて面白い記事がある。このチームは、負け続けたことで自分たちのメディア価値の高さを逆説的に証明した、というものだ(マンチェスター・ユナイテッドのブランド価値…昨季から続く低迷の影響とは | サッカーキング)。確かにマンチェスター・ユナイテッドのブランド価値は、調査会社の結果を見れば下落している。その一方で、メディアへの露出は維持されている。つまり負けることで「あのマンUが負けた」「なぜマンUは混乱しているのか」といった記事がメディアに踊ることで、いかに世界がマンチェスター・ユナイテッドに注目しているのかを1年かけて示し続けたというのである。

おそらくこのあたりがロン・デニスの狙いなのだろう。

現在最強であるメルセデスのパワーユニットとの契約をとりやめ、その性能が未知数な日本のホンダとの契約を大々的に発表したのはなぜか。赤と白の「マールボロ」の亡霊を自分たちのイメージとして繰り返しメディアで宣伝してきたのはなぜか。アロンソとの契約、若く将来のあるマヌグヌッセンではなく枯れたジェンソン・バトンとの契約。ファンが言うならまだしも、自分たちで「マクラーレン・ホンダ」のブランドを強力にプッシュしているのはなぜか……?

つまり今のマクラーレンの「ウリ」は、とにかくも結果ではない。まずはブランド価値であり、露出を促すメディア価値だということだろう。

リザルトが低迷しても、マクラーレンのブランド価値が下がっていないどころか、むしろホンダとのジョイントで上昇しているといっても過言ではない現在、「自分たちを安売りしない」という信念が、最初のロン・デニスの発言:

これからだって「私たちのスポンサーになりたいのかい? でも私たちはマンチェスター・ユナイテッドだよ」ということができる (Formula 1 team title sponsors are history - McLaren's Ron Dennis - F1 news - AUTOSPORT.com)

に示されているのだ。

以上、ガッテンしていただけただろうか。一つの短い発言を読み解くにも、ちょっとばかりの周辺や背景の情報が必要なのだ……。

ちなみにF1ワッチはマンチェスター・シティを応援しています。その理由については、スコットランドの名優ロバート・カーライルが「しょぼい高校のサッカー部の監督かと思ったら、実はかつてのマンチェスター・シティの伝説のスーパースターだった」という少年漫画的展開を好演した以下の映画をごらんください。

リトル・ストライカー [DVD]

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いやー、ウィリアムズ(シティ)かマクラーレン(ユナイテッド)かって感じかな〜。

*1 [注釈:なお、日本語版の配信元は「マクラーレン「タイトルスポンサーは過去の概念」 - オートスポーツweb」だが、最近のオートスポーツwebはPVを稼ぐために記事をページ分割して読者の利便性を損なっているだけではなく、そのせいで今回我々が引照したいデニスの発言が1ページ目に存在しないことから、リンク情報の正確性という意味で信用できないので、日本語ソースとしては全文が1ページに掲載されているYahoo!ニュースへの配信記事を最初に示した。]

(CC) 画像出展:McLaren MP4/5B | Flickr - Photo Sharing!