Subscribed unsubscribe Subscribe Subscribe

F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

フランク・モンタニーのコカイン陽性は「ドーピング」なのか

フォーミュラE選手権に参戦していた元F1ドライバーのフランク・モンタニーが、レース後の尿検査でコカイン陽性反応を出した(モンタニー、コカインの陽性反応でレース人生危機 - オートスポーツweb)。

Franck Montagny

この結果、モンタニーは当面のあいだレース活動から除外される見込みだ。既にフォーミュラEの第三戦には出走していない。しかし、麻薬として広く知られるコカインは、それ自体が害悪だとしても、果たしてモータースポーツにおける競技力を向上させるような効果を持っているのだろうか。

FIAの「アンチ・ドーピング・プログラム修了証」をもつ当F1ワッチとして、このニュースを考えてみよう(参考:FIAからアンチ・ドーピング・プログラムの修了証をゲットする方法 - F1ワッチ (f1watch))。本件に関してヨーロッパのメディアは案外と「静か」だが、それはなぜだろうか……?

コカインは禁止薬物ではない

実は、コカインはFIAの競技において禁止薬物リストに含まれていない。

世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の規定によると、コカインは興奮剤に分類されている。WADAによる規定の日本語訳によると(S6. 興奮薬 | 禁止表)、コカインは「a: 非特定物質の興奮薬」の中にその名が示されている。

すべての興奮薬(関連するすべての光学異性体(例えば、d体およびl体)を含む)は禁止される。[....] 2014年監視プログラムに含まれる物質(ブプロピオン、カフェイン、ニコチン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピプラドール、シネフリン)は禁止物質とみなさない。(S6. 興奮薬 | 禁止表

しかし、この「S6. 興奮薬」の項目は、WADAの「常に禁止される物質」ではなく、「特定競技において禁止される物質」に置かれている。これはスポーツ(統括団体)の種類によっては、興奮剤が禁止薬物とは見なされていないということを示している。

FIAの管轄するモータースポーツでは、「特定競技において禁止される物質 - 禁止物質 | 禁止表」の中で「P1. アルコール」と「P2. ベータ遮断薬」が禁止されていることは、F1ワッチが既に伝えた通りである(参考:FIAからアンチ・ドーピング・プログラムの修了証をゲットする方法 - F1ワッチ (f1watch))。しかし裏を返せば、それ以外の物質は、明確に禁止されていないことになる。

つまりフランク・モンタニーは、WADAとFIAのアンチ・ドーピングのルール上は、禁止薬物を摂取したわけではない(競技力向上を狙うドーピングとはみなされない)ということになる。

自転車スポーツでの先駆的事例

それではモンタニーは無罪なのかというと、物事はそのようには進まないと考えられる。

例えばプロサイクリングを先例として考えてみよう。自転車競技は(不名誉なことに)ドーピング先進エリアのひとつであり、厳しい検査を課していることでも知られている。当F1ワッチの知る限りでは、近年だとトム・ボーネンというベルギーの有名選手がコカイン陽性を出して騒がれたことがある(レース外、しかし複数回もだ)。

その際のボーネンの立場は、今回のモンタニーに近いと言えるかもしれない。というのも、やはりUCI(国際自転車競技連合、自転車におけるFIAのようなもの)の禁止薬物リストにコカインは含まれていなかったからだ。従って、UCIから出場停止処分は科されなかった。しかしボーネンはツール・ド・フランスをはじめとするメジャーなレースから締め出されることになった。

その背景には、ドラッグの利用が競技のイメージを悪化させる、というレース主催者による判断や、「本人の倫理・道徳上的な問題」として看過できない(ボーネンが2度目のコカイン使用発覚 ツール出場はまた絶望的 | cyclowired)という判断があった。言うまでもなくコカインは強力な麻薬であり、世界的に大きな社会問題を引き起こしていることは言うまでもない(参考:What is Crack Cocaine? How to Smoke Crack? Street Names for Crack - Drug-Free World)。

特にフランスはスポーツ選手の薬物使用・ドーピングに対して厳しい姿勢を取っている。ヨーロッパ諸国の中でも薬物への態度に差があるのだ。そのあたりはドーピングを告白したプロサイクリング選手の自伝にも詳しい。例えばフランスに住みながら、ドーピングをするためだけに(ドーピングに対してそれほど厳しくない)スペインまで通っていた、であるとか(参考:シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られざる内幕 (小学館文庫))。

したがって、フランク・モンタニーに対しては、例えコカインが禁止薬物ではないとしても、個人の道徳的にも、フランス人のドライバーとしても、しばらくは特定の競技から除外される処置が取られる可能性が高い。しかし、トム・ボーネンが既にレースに復帰している点に鑑みても、一定の期間経過と、本人の更生努力が認められれば、再びレースに復帰できる可能性はある。もちろん、スポンサーとファンがそれをよしとすれば、という条件付きではある。

結論としては、フランク・モンタニーはコカインを競技力向上のために用いたとは考えられず、おそらくは個人的な理由で用いたのだろう。FIAもコカインを禁止薬物には加えていないが、イメージ低下と倫理的な問題として、モンタニーには出場停止処分が科されると考えられる。

本件があまりメディアで騒がれず、モータースポーツにおける深刻なドーピング問題と直結して捉えられているわけでもないのは、モンタニーの個人的なドラッグ問題としてヨーロッパでは考えられているからかもしれない。

(CC) 画像出典:Franck Montagny | Flickr - Photo Sharing!

Remove all ads