F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

F1トロフィーの知られざる製作者、そして盗難の理由

さまざまなF1のトロフィーを作っているのは誰か。実は、レッドブルのトロフィー強盗のニュースに触れたとき(F1ワッチでは「もしもレッドブルのトロフィー強盗を見かけたら」)、はるか昔にトロフィー製作者を特集した雑誌記事を読んだことを思い出した。確か、あれは……

Tickertape

実家の倉庫で見つけた。『F1レーシング日本版』2009年1月号、「チャンピオントロフィー:王者だけが手にすることを許された一級の工芸品」という記事だ(59, 60頁)。

この記事によると、年に一度おこなわれるFIAの表彰式(いわゆる「GALA」)で勝者に手渡されるトロフィーは、リチャード・フォックスという職人によって製作されているという。彼はセレブリティ御用達の銀細工師で、バーニーに依頼されたことをきっかけに、コンストラクターズとドライバーズの両方のトロフィーの製作を一手に引き受けているという。

記事を離れて調べてみると、2014年現在、そのリチャード・フォックスの工房は「フォックス・シルバー・リミテッド」という会社のようだ(参考:Fox Silver Limited - Home)。

現在では、FIAのGALAで用いられる特別なトロフィーだけではなく、いくつかのグランプリの表彰式で授与されるトロフィーも製作している。フォックス・シルバーのモータースポーツのページ(Fox Silver Limited - Motorsport)によると、F1だけ見ても、アブダビ、アメリカ、インド、ベルギーといったグランプリが並んでいる。

こうしてトロフィーについての情報を調べていくと、これが盗難される理由も想像できるようになる。

まず、F1のトロフィーはそれ自体が貴金属として価値があるものが多い。再び2009年1月の『F1レーシング』の記事に戻ると、FIAのチャンピオントロフィーは、銀92.5%と銅などの金属7.5%で構成されるスターリングシルバーによって製作されており、19世紀に開発された伝統的な「電鋳法」によって鋳造されているという。これができるのは英国内に3人しかいない、と記事には記されている。

さらに、レプリカの価値も高い。盗難発覚からまもなく、レッドブルから盗まれたトロフィーの多くが「レプリカ(複製品)」であることがクリスチャン・ホーナーによって明らかにされたが、だからといって価値がないというわけではない。

リチャード・フォックスによって作られるトロフィーは、まさに彼自身の技術がなければ製造することができない芸術品であるがゆえに、やはりレプリカも彼によって製造される。「これは勝者にしか手にできないものだ。ファンからレプリカを作ってくれと頼まれるが、……その手の依頼はうけない」と、フォックスは『F1レーシング』誌に語っている。

2007年シーズンにフェラーリとキミ・ライコネンが勝利した際には、FIAによって授与されるドライバーズのトロフィーのレプリカが2個(フェラーリ用とキミの個人用)、さらにコンストラクターズのトロフィーが2個で、これら計4個の製造には8ヶ月の期間がかかるというのだ。もちろんオリジナルはFIAに返還され、保存されている。オリジナルが使われるのは一年に一度だけ――GALAの時だけ――で、世の中に流通しているチャンピオントロフィーはすべてレプリカなのだ。

もちろんグランプリごとにトロフィーの製作者は異なり、金属の組成も異なると思われるが、少なくともリチャード・フォックスという一級の銀細工師によって製造されているいくつかのトロフィーについては、「極めて貴重」なものだと言えるだろう。

もちろん、トロフィーそれ自体の価値に関心がない人間にとっても、貴金属としては関心の対象になるだろう。日本でも、電線や建築物の銘版、マンホールのフタなどが、ただその金属としての価値ゆえに盗難されるのと同じ理屈である。

レッドブルの強盗を褒めるわけではないが、F1のトロフィーを盗み出すことは、目の付け所としてはクレバーだったと言えるかもしれない。

(CC) 画像出典:Tickertape | Flickr - Photo Sharing!

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