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F1ワッチ (F1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

アンダーカットとは?

フジテレビのF1中継は、何の説明もなく一般的ではない用語を乱発することに定評があるが、おそらく近年では「アンダーカット」がその代表例だろう(最近では「リフト・アンド・コーストとは? - F1ワッチ (f1watch)」が挙げられる)。

F1 Pit Sign

この「アンダーカット」という用語がわかりにくいのは、2010年から2011年にかけて世界的にF1シーンでの使用方法が大きく変化したからかもしれない。つまり、その時期を境に、まったく別の意味で使われるようになったのである。

まずは、現在から。

2014年現在、アンダーカットという用語は、F1においてはピット戦略(タイヤ交換のタイミング)を指摘する用語として用いられている。いくつかのグランプリのタイトルスポンサーも務めるUBSが「アンダーカットの秘密」として、説明の記事を出しているのがわかりやすいので紹介しよう。(The secret of undercut and offset | UBS – Global Partner of Formula 1®

The secret of an undercut is to harness the performance advantage of a new set of tyres over old ones; up to two seconds per lap.

アンダーカットの秘密とは、古いタイヤから新しいタイヤに変更した際に得られるラップタイム向上の優位性を利用することである。

An undercut is where Driver A leads Driver B, but Driver B turns into the pits before Driver A and changes to new tyres. As Driver A is ahead, he’s unaware that this move is coming until it’s too late to react and he has passed the pit lane entry.

例えば、リカルドがロズベルグの前を走っているが、ロズベルグがリカルドよりも先にピットに入って新しいタイヤに変えたとする。リカルドは前を走っており、彼はロズベルグのこの動きに気がつくのに遅れて、ピットレーンの入り口を通り過ぎてしまう。

On fresh tyres, Driver B then drives a very fast “Out” lap from the pits. Driver A will react to the stop and pit on the next lap, but his “In” lap time will have been set on old tyres, so will be slower. As he emerges from the pit lane after his stop, Driver B is often narrowly ahead of him into the first corner.

ロズベルグは新しいタイヤを使って、とても速いラップタイムでピットから出た最初の周(アウトラップ)をまわる。リカルドは古いタイヤで遅いラップタイムを刻んでからピットに入ることになる。リカルドがピットから出てくるとき、ロズベルグはわずかながらリカルドより前で1コーナーに進入して、追い抜きに成功する。

This is an undercut and it is up to the Race Strategists to spot an opportunity and go for it. We saw a classic undercut in the recent 2014 FORMULA 1 UBS CHINESE GRAND PRIX, where Mercedes got Nico Rosberg ahead of Daniel Ricciardo by undercutting him at the first stop.

これがアンダーカットだ。2014年の中国ではそのお決まりの例がみられたが、それはメルセデスのニコ・ロズベルグがレッドブルのダニエル・リカルドを最初にピットストップを利用して追い抜いた時だった。

このように、ピットストップのタイミングをライバルよりも速めることで、結果としてライバルの前に出るのが現在のアンダーカット戦略である。

しかし、この用語は昔からF1で用いられていたわけではない。いったいいつごろからアンダーカットという用語がF1で用いられるようになったのだろうか。Googleトレンド で「F1」と「undercut」という二つの単語の使用頻度を調べてみた。

f:id:quzy:20140825211509p:plain

undercutと比較させる対象としてF1はあまりにも規模が大きすぎるのだが、それでも2011年5月に F1の指数と比較しうるかたちで、undercut 登場の画期がみられる。おそらくはそれぐらいの時期から、積極的に undercut という用語が用いられるようになったのではないかと推測できる。

これをヒントに、日本語で「F1」と「アンダーカット」という二つのキーワードで、2010年に期間を限ってGoogle検索をかけてみると、面白いことがわかる。アンダーカットという言葉は、2010年のあいだはほとんど用いられておらず、用いられている場合でも、それはピット戦略ではなく、マシンのデザインについて用いられる用語だったのである。例えば以下の通り:

やや怒り肩のサイドポッドもF1.09のイメージを受け継ぐが、アンダーカットは鋭さを増した。(【STINGER】BMWザウバー C29 >> F1 NEWS|ニュース|STINGER / 独自の視点でF1ニュースを発信

これは英語でもほぼ同じような結果になる。例えば:

Unusually for current F1 the roll structure is not undercut and supported by separate pylons, as well as the tail of the engine cover only having a low fin. (February | 2010 | ScarbsF1.com | Page 3)

とか

Its no surprise to see teams borrow the best bits from the 2009 cars – the high Red Bull v-nose, the double diffuser, outboard mirrors, heavily undercut sidepods, double endplates – but these features are tied together in trying to achieve two outcomes. (2010 F1 cars technical analysis (Part 1) - F1 Fanatic

と、アンダーカット(undercut)という用語は、辞書にある「下部を切り取ること;削り取ること;その部分.(ジーニアス英語大辞典)」という意味通りで使われている。2010年まではF1でのアンダーカットも辞書通りの意味であり、現在のような特別な意味は持っていなかったようだ。

しかしこれが2011年になると、特別な意味で使われるようになる。今度は2011年内に限ってGoogle検索をしてみると、いわゆる「アンダーカット戦略」についての記事ばかりがヒットする。

たとえば「f1で川井ちゃんが戦略のことでアンダーカットって言っていました。アンダーカットって何でしょうか。(Yahoo!知恵袋」(2011/5/29)という質問がなされているように、なんの前触れもなく「アンダーカット」という新用語がF1に登場し、多くの日本のF1ファンが混乱していた様子がよくわかる。

2011年ごろから使われるようになった「アンダーカット」の意味は、辞書には載っていないし、辞書からその内容を推測することも難しい。Oxford English Dictionary (OED) のような、英単語の語源を集成して掲載しているような専門的な辞書にもまだ掲載されていない。まったく新しいものだと言えそうだ。

それでは、いったい誰が「アンダーカット」に特別な意味をもたせて、F1で使うようになったのだろうか。このような etymology(語源)をめぐる疑問は難しい問題で、短時間のリサーチで答えが出せるものではない。

しかし、面白い手がかりを発見した。上の Yahoo!質問箱で、カワイチャンが使い始めた「アンダーカット」に対する疑問は、5月29日に発せられたものだったが、ほぼ同時期(5月12日)に、英国でも「解説者のマーティン・ブランドルが使い始めたアンダーカットってのはいったいどんな意味なんだ!?」という疑問が、BBCの掲示板に投稿されているのである。(BBC - 606 - - A84553059 - UnderCut!!!!!!

THis new phrase that martin Burndle has made up ( or maybe everyone in F1 is using like the phase 'for sure')is really starting to annoy me!!!!! [.....] it really bugs me & now DC is staring to use it

「マーティン・ブランドルが作った(か、F1関係者全員が「確かに(for sure)」のように使い始めたのかもしれない)この新しい語句が、本当に私を悩ませ始めています!!!!! [....] それは本当に私は困っているし、今やデイヴィッド・クルサードまでアンダーカットを使い始めた」と、ある。

実に興味深い。

2011年5月ごろから、日本(日本語)でも英国(英語)でも、いきなりテレビ解説者が当たり前のように使い始めた専門用語が、視聴者に「なんじゃそりゃ?」を連発していた——おそらくはパドックの「F1村」のなかの誰かが使い始めて、流行し始めたのだろう。それをF1ファンも当たり前のように使い始めた、それまでとは全く異なる文脈で、異なる意味で……

言葉とは面白い。

(C) 記事出典:The secret of undercut and offset | UBS – Global Partner of Formula 1®

(CC) 画像出典:F1 Pit Sign | Flickr - Photo Sharing!

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